大判例

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大阪地方裁判所 平成5年(わ)4254号 判決

本籍

高知市帯屋町一丁目一八三番地一

住居

大阪府南河内郡美原町さつき野西二丁目一五番地の五

会社役員

藤田集司

昭和二五年七月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官濱田毅出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金五五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成二年五月ころまで、大阪府松原市天美東二丁目一〇八番地の三において、その後、同市天美東二丁目八四番地の一において、「三高産業」の名称で産業廃棄物処理業等を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、

第一  別紙1の1の修正損益計算書記載のとおり平成元年分の総所得金額が六八一一万九六〇九円であったのにかかわらず、実際の所得金額と関係なく、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成し、所得を秘匿したうえ、平成二年三月一五日、大阪府富田林市若松町西二丁目一六九七番地一所在の所轄富田林税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が六八〇万円で、これに対する所得税額が六九万七四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2の税額計算書記載のとおり同年分の正規の所得税額二九二五万三〇〇〇円と右申告税額との差額二八五五万五六〇〇円を免れ、

第二  別紙1の2の修正損益計算書記載のとおり平成二年分の総所得金額が一億九〇〇五万九六九三円であったのにかかわらず、前同様の方法により、所得を秘匿したうえ、平成三年三月一四日、前記所轄富田林税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が七五〇万円で、これに対する所得税額が八一万七四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2の税額計算書記載のとおり同年分の正規の所得税額九〇一七年三〇〇〇円と右申告税額との差額八九三五万五六〇〇円を免れ、

第三  別紙1の3の修正損益計算書記載のとおり平成三年分の総所得金額が二億三〇四一万四四五一円であったのにかかわらず、前同様の方法により、所得を秘匿したうえ、平成四年三月一六日、前記所轄富田林税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が一〇〇〇万円で、これに対する所得税額が一五一万五〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2の税額計算書記載のとおり同年分の正規の所得税額一億一〇三三万〇五〇〇円と右申告税額との差額一億〇八八一万五五〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(四三、四四)

一  古田隆久の検察官に対する供述調書(四〇)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二四通(記録第二三-九号、同第二三-二号、同第二三-三号、同第二三-五、同第二三-三五号、同第二三-三六号、同第二三-三七号、同第二三-三八号、同第二三-四五号、度を第二三-五六号、同第二三-五七号、同第二三-五八号、同第二三-五九号、同第二三-六〇号、同第二三-六一号、同第二三-六二号、同第二三-六七号、同第二三-六三号、同第二三-六四号、同第二三-六五号、同第二三-六六号、同第二三-六八号、同第二三-七二号、同第二三-五五号)(一〇ないし一二、一四、一六ないし三四、三六)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(八)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二三-七六号)(三八)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成二年三月一五日に申告した所得税確定申告書写についてのもの)(四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までのもの)(一)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書四通(記録第二三-四号、同第二三-三〇号、同第二三-七三号、同第二三-七四号)(一三、一五、三五、三九)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一四日に申告した所得税確定申告書写についてのもの)(五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(二)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二三-七五号)(三七)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年三月一六日に申告した所得税確定申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(三)

(累犯前科)

一  事実

昭和六二年一二月二四日大阪高等裁判所で業務上過失傷害、道路交通法違反の各罪により懲役一〇月に処せられ、平成元年五月一〇日刑執行終了

二  証拠

検察事務官作成の前科調書(四六)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、罰金はその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、前記前科があるので、刑法五六条一項、五七条により判示各罪の懲役刑についてそれぞれ再犯の加重をし、以上の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金五五〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、産業廃棄物処理業等を営む被告人において、三年度にわたり、合計二億二六七二万円余りの所得税を脱税したという犯行で、脱税額が多額であるうえ、そのほ脱率も三年度平均で約九八・七パーセントと高率な脱税規模の大きな事案である。そして、脱税の動機、目的をみても、最終処分地取得等の事業拡大のためなどの資金蓄積を図り、実際所得額を十分に把握しつつ、前年申告所得に若干の上乗せをした所得のみを虚偽過少申告し、継続的に脱税を重ねていたもので、そもそも事業拡大のための資金蓄積は事業者として正当に納税義務を果たしたうえで行なうべきものであるのは当然のことであり、その動機、目的においてとくにしん酌すべき点はなく、憲法で定められた国民の納税義務に著しく違反し、強い非難が加えられるべき犯行である。そして、このような脱税の犯行内容に加えて、被告人が、業務上過失傷害、道路交通法違反の罪により実刑判決を受け、刑罰の重みを身をもって体得したその服役後にあえて本件脱税の犯行に至っていることなども合わせ考えると、被告人の責任はかなり重いといわなければならない。

しかし、他方、被告人において、本件脱税に関し、査察後修正申告を行ない、既に所得税本税は納付ずみで、重加算税及び延滞税や地方税についても現在分割納付中であること、被告人は、本件摘発後、事実関係を認めて、十分に反省しており、現在、事業を法人化し、顧問税理士の指導のもとに経理体制を改め、今後の再過なきことを誓っていることなど、被告人のためにしん酌すべき事情もある。

そこで、これら有利不利一切の事情を総合考慮し、主文掲記の懲役及び罰金刑に処したうえ、懲役刑についてはとくにその刑の執行を猶予することにした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1の1

修正損益計算書

(藤田集司)

総所得金額

〈省略〉

(事業所得)

〈省略〉

(総合短期譲渡所得)

〈省略〉

別紙1の2

修正損益計算書

(藤田集司)

総所得金額

〈省略〉

(事業所得)

〈省略〉

(総合短期譲渡所得)

〈省略〉

(総合長期譲渡所得)

〈省略〉

別紙1の3

修正損益計算書

(藤田集司)

総所得金額

〈省略〉

(事業所得)

〈省略〉

(総合短期譲渡所得)

〈省略〉

(総合長期譲渡所得)

〈省略〉

別紙2

税額計算書

〈省略〉

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